POINT 海洋鉱物資源の国内供給源として期待される海底熱水鉱床の、採掘プロジェクトに参加。三井三池製作所は、2000mの深海でも安定的かつ効率的に稼働する採鉱機を開発しました。そしてこのプロジェクトは、世界で初めて海底熱水鉱床の採掘試験に成功しました。
導入前の課題
深海にある海底熱水鉱床での採掘が可能な採鉱機が必要だった
産出量が多く精錬が簡単なベースメタルと、産出量が少なく抽出が難しいレアメタル。日本では、どちらの鉱物資源も輸入に依存しています。この状況は鉱物資源の価格高騰や供給不足というリスクを抱えており、国内産業に与える影響が大きいことから、鉱物資源の安定的な供給を目指して、国は複数の政策を総合的に実施しています。その政策の1つが海洋資源開発です。
日本企業による資源開発を促進している、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構様(以下、JOGMEC様)は、国が定めた「海洋基本計画」および「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」を踏まえて、海洋鉱物資源の開発に取り組んでいます。中でも、有用な金属を含んだマグマが海水で冷却されてできた海底熱水鉱床は、海洋鉱物資源の新たな国内供給源として期待されることから、以前から調査準備を進めてきました。
海底熱水鉱床の徴候は世界で約350カ所、日本の周辺海域では沖縄トラフや伊豆・小笠原海域で、数多く確認されています。これらは世界と比較すると浅い水深に分布していますが、それでも水深700m~3000mあり、当時海底熱水鉱床の採掘試験に成功した例は、世界中どこにもありません。JOGMEC様はこの挑戦的な調査の実施に向け、凹凸のある深海の地面上でも安定的に稼働できる採鉱機を調達することにしました。
製品
2000mの深海でも、安定的かつ効率的に稼働する採鉱機を開発
JOGMEC様は2010年7月に入札を実施する旨を公示。不確実な要素が多く困難が予想される事業でしたが、三井三池製作所は海上技術研究所様とのJVという形で入札に参加し、審査の末に落札できました。自由断面掘削機メーカーとして国内有数の実績を持つことが、評価につながったと考えられます。
公示の際に採鉱機の主な要件として、JOGMEC様が挙げていたのは、
- 水深2000mの海底で使用できること
- 不陸がある地面でも転倒せず、移動や作業ができること
- 急傾斜走行時の頂上付近など、急激な重心変化による衝撃を軽減できること
などです。その他の要件は、議論や実験を重ねながら、海底での安定稼働に向けた機能を実現しました。
例えば従来機では、凸凹した海底地面で機体を水平に保つため、足回りには複雑な調整機能が付いた4~6本の足が採用されてきましたが、今回は複雑な調整機能が不要な2クローラ式を採用しました。また、構造は水圧を受けやすい箱型空間(閉空間)にならないよう注意しつつ、できるだけ重心が低くなるように調整しました。
さらに、掘削と揚鉱のどちらも対応できるよう、採鉱機の先端をアタッチメント式に。掘削作業中や走行時に粉塵で悪化する視界を一定範囲回復する機能や、3Dソナーを用いた計器で前方確認できる機能も搭載しました。これらの機能は、深海で転倒せず効率的に作業できることに加えて、2000m離れた船上からの操作性も考慮して開発しました。
導入後の効果
開発機を用いた海底熱水鉱床の採掘試験が、世界初の成功例に
2012年8月、JOGMEC様は沖縄沖で洋上試験を実施。海底でのマウンドの掘削および軟弱地盤での走行を行い、海底熱水鉱床の採掘が技術的に可能であることを実証しました。同時に、掘削に関わる作業についての、経済性検討に資するデータを提供しました。これは世界で初めて海底熱水鉱床の採掘試験に成功した例となったのです。
続く2014年の洋上試験では、24時間以上の連続操業を達成。沖縄トラフにある伊是名海穴南部のマウンド中腹に長さ約25m、幅約4m、ロール角3度のスロープを造成しました。そして、2017年9月の洋上試験では、そのスロープをベースに、マウンドから約70tの掘削塊を造成し、そのうち35~50tを破砕用として回収・集積。掘削塊を海底で13.5tの破砕塊としてパレット内に蓄積し、後工程の水中ポンプによる船上への揚鉱試験につなげました。これも世界で初めて水深約1600mという海底での一連の採鉱・揚鉱作業に成功した例となりました。
今回の機器およびシステム開発で現行技術による海底熱水鉱床の採掘が可能であることを立証しました。しかし、連続操業時間の延長や掘削効率の向上、遠隔操作性の向上や法的整備など、経済性の観点ではまだ解決すべき点が残されています。今後は、今回得たノウハウを基に、商業化に向けたさまざまな問題解決に取り組んでいく予定です。