POINT 住宅街近くの現場では発破による掘削が難しく、機械で掘削する必要があります。しかし、硬岩域では掘削に時間がかかります。そこで、大成建設様と三井三池製作所は硬岩域でも自由な形に掘削できる機械を共同開発。硬岩域でも効率的に掘削できるようになりました。

導入前の課題

効率的な工事のため、硬岩域でも掘削できる機械が必要だった

近年は住宅地や道路、鉄道路線や重要施設などの近くで、トンネル工事を実施するケースが増えています。その場合、工事を請け負う業者は、周辺の住民や環境に十分配慮しながら、工事を進めることが原則です。通常のトンネル工事で採用している火薬を使用した発破掘削や、打撃音を発生させるブレーカ掘削などの工法は、振動や騒音を軽減できるように工夫を凝らします。しかし、それでも賛同を得られず採用できないケースが少なくありません。

建築・土木事業を通じて、国内外で社会基盤構築の一翼を担っている大成建設株式会社様(以下、大成建設様)も、この問題に直面していました。通常のトンネル工事で、発破掘削が使用できない場合は、自由断面掘削機を利用して施工します。しかし、地盤によっては一軸圧縮強度50MPaを超える硬岩を含むことがあり、そうした硬岩域では自由断面掘削機の掘削能力が徐々に低下してしまい、コスト増加や工期の長期化が避けられないのが現状でした。

工期の短縮をはかるため、機械での掘削が必要不可欠と考えた大成建設様は、従来機械での掘削が困難だった、100MPa以上の硬岩さえも掘削できる機械の開発に着手。ディスクカッタを用いた掘削機を開発することにしました。

製品

100MPa以上の硬岩を自由な形に掘削できる機器を開発

大成建設様は、20年前にアメリカの建機メーカー・ロビンス社と、ディスクカッタを用いた硬岩掘削機MM130Rを共同開発していたことから、今回はこの硬岩掘削技術を継承することを希望していました。しかし、このMM130Rは超大型の機械だったため、今回の現場に合わせた小型化はもちろん、使いやすさの向上、組み立ておよび解体の短期化を図れる設計、最新技術を活用した機能の搭載などを図る必要がありました。

新たな硬岩掘削機の開発におけるパートナーについては、トンネル掘削工事での自由断面掘削機の使用実績や、保有する豊富な鉱山掘削機械の製作技術を評価し、三井三池製作所に決定。両社の共同開発という形で進めました。

本プロジェクトにおける重要なポイントは、掘削能力の強化です。新しい硬岩掘削機では高圧力の回転式ディスクカッタで亀裂を作り、その亀裂同士をつなげることで岩を割って進む方式を採用。これにより100MPa超の硬岩を、自由な形に掘削可能になりました。また、トンネル工事ではある程度掘削した後に、土砂搬出や地山固定といった工程をはさんで、再び掘削作業に戻ります。その際に適切な位置に戻り、適切な位置から掘削再開できる自動化システムを搭載しました。所定の位置に掘削機を据え付けるだけで自動的に掘削を再開できます。さらに、切羽の形状を常に球面で維持することで切羽を安定させ、現場の安全性を向上させました。

導入後の効果

100MPa超の硬岩域を、1時間あたり約15㎥で掘削可能に

約2年の開発期間を経て完成した新型硬岩掘削機「TM-100」は、掘削性能試験で100MPaの模擬岩盤を掘削できました。また、80MPa以上の硬岩では、従来機の2倍以上の掘削能力を発揮しました。さらに、ディスクカッタをピックに替えることで、軟岩域の掘削も可能となります。

大成建設様は、このパワフルなTM-100を、新名神高速道路川西トンネルの工事現場に投入。現地は特に住宅地が近い上、地盤がさまざまな種類・硬さの岩で構成されており、通常の掘削機では工事の難航が予想されていました。しかし、TM-100のおかげで硬岩域も効率良く掘削して進むことができたのです。

この実績が認められ本プロジェクトは、公益社団法人土木学会の平成28年度技術開発賞と、一般財団法人エンジニアリング協会の第9回エンジニアリング奨励特別賞を、受賞しました。このことは両社の開発力を業界内にアピールする良い契機となったはずです。

このTM-100は従来機に比べるとまだまだ機体が大きく、国内で稼働できる現場は限られていたことから、残念ながら1現場のみの稼働で運用を終了しました。ただ、今回の開発で得た新たな機能やシステムの知見は、別の機器開発での活用が見込めます。